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随分と梅雨が長引いたそのせいで、今年は冷夏なのかなと危ぶまれている夏の初め。満を持しての“夏休み”へと突入したそのまんま、まず最初のお楽しみ、ビッグイベントへとウキウキ向かうは。済みません、ずんとご無沙汰しておりましたです…の、ウチでは最古参の人外メンバー御一行。
「何だよ、その紹介っぷりは。」
「もっと真面目にやれ。」
ううう…。(泣) 最終更新が何と九月ですものね。大掃除のどさくさに紛れて、資源ゴミに出しかねなかったくらいのお久し振りです。一体どんな流れの中にいた彼らなのかといいますと。
………前章までをご参照くださいませ。(おいこら)
◇
東京湾の只中に、いつの間にやら設えられたという結構な規模の人工島に、人気のオンラインゲームの世界をそのまま再現したという、ファンタジーワールド“ドラゴン・メイデン”の世界へのご招待。その筋のごくごく限られた層の人々にしか知られてはいないが、知っている人たちからすれば垂涎の、一大アミューズメントパークへのこけら落とし的なイベントにモニター参加できるという幸運を引き当てた、相変わらずにくじ運のいいルフィ坊やと、その付き添いで保護者代理のお兄さん…ともう一人が。新都市交通機関にて辿り着いたるお台場から、舞州という名の孤島行き、これもまた臨時で開設されたという、ケルベロス島行き臨時特別列車専用の駅構内へとお運びあそばしたというところまで、何とかお伝えしておりましたが、
「うわ〜〜〜っ。凄っげぇ〜〜〜っっ!」
辿り着いたプラットホームも、乗り込んだ列車自体も、さほど奇抜に凝ったところもない、ごくごく普通一般の“何とかライナー”とかいう代物だったが。地下になっていた駅から殺風景なトンネルを数分も走ったか。すぽんと、何の前触れもなく飛び出した、目映いまでの光の世界。そこへと目が慣れ、真っ先に驚かされたのは、その眺望だった。前後左右の四方八方、かなりの尋に渡る周囲に何にもないあっけらかんと広い広い海の上を、この列車の高架線路だけが走るという仕立てはなかなかに圧巻で、
「アメリカの映画とかになかったか? こういうシーン。」
「確か、シュワちゃんの『トゥルー・ライズ』の終盤とかにあったvv」
あとは車のCMとかね。(笑) こんなごっついものを作っていたことが、なのに知らされてなかっただなんてと。運転席のない先頭車両の一番前、見晴らしのいいことを見越して設計されたものだろう、展望車仕様のちょっとしたラウンジのようになってる車輛の、その天井へまで至るほど、広々大きな窓へと張り付いて。大きな眸をくりくりさせつつ はしゃぐルフィ坊やへは、同じ目的地へと向かう他の乗客の皆様がたが、半ば微笑ましげな苦笑を向けてくださっており。いっそ自分の代わりにはしゃいでくだされと言わんばかりの、嬉しそうなお顔ばかりであったりし。
“まま、これもまたこいつの“らしさ”ではあっからな。”
恥ずかしいから悪目立ちするような真似は慎めと、叱ったところで聞きゃしめえ、なんて。重々判っておいでの保護者さんは、
「あんま大声ではしゃぐなよ?」
「おお♪」
度外れた迷惑行為にならないならば善しとばかり、どんと構えておられるし。もうお一方、飛び入りで同行することとなった金髪痩躯のお兄さんはというと、
「今回は特別なイベントだから、だとはいえ。こうまで交通手段も限られた、言わば都市や何やから隔離されたところへ、結構な規模の宿泊施設つき商業施設を設けることに、よくもまあ許可が下りたよな。」
消防法とか都市整備法だとか、そういうややこしいものへ抵触しなかったんだろかと、いかにも大人としての心配ごとを口にしたが、
「その点は大丈夫ですよ。」
にぃっこりと笑って見せたのが、魔法っ子学園マジカル何とかという制服でのコスプレも愛らしい、案内役のお姉様。乗換駅で彼らへお声をかけてくれたこの彼女が、引き続きのそのまま、ルフィらを先導して下さるらしく、
『此処での名前は“りぼん”といいますvv』
ネットでいうなら“ハンドルネーム”というところだろうか。そんな仮のお名前を名乗って下さり、
『よろしくお願いしますだワンvv』
男の子が同じことをやったなら、たとえそれがルフィでも“口の利き方学んできやがれ!”と、愛の制裁キックが容赦なく繰り出されたところだろうにね。
『こちらこそで〜すvv』
同じテンションでやにさがったそのまま、サンジさんを大いに喜ばせたのだが、まま、それはさておき。
「必要な許可は全て、遺漏なく取得しております。今回のようなサプライズな要素ばかりのシークレット・イベントだけでなく。先々では ごくごく普通に、国際見本市や国際会議などの会場にも転用出来るようにと、計画されたものですからね。」
いえ、だからって引っ繰り返して“アミューズメント施設に於いては、そういった安全への措置や法が甘い”とまでは申しませぬが。アニメだCGだ、コンピュータだネット版権だという、そういった分野で今や世界一の需要とクオリティを誇る日本。これほど先行き明るい業種もなかろうと見る筋も多く、スポンサーには事欠かずで。提携を結んだその折に、法規関係や安全面でのフォロー、事故や防災への対策などなど、それぞれへのプロへの口利きもちゃっかりとお願いし、完全な目配りをと手配してあるのだそうで。
「何かあったら、じゃないと詳細までは言えませんが。万が一のときの避難対策も万全ですから、ご心配なさらず心から楽しんで下さいませな。」
愛らしいベビーフェイスのその目許、きゅるんと細めて微笑ったお姉様に、
「ええ、ええ。堪能させていただきますともvv」
そりゃあ嬉しそうに応じたサンジさんは、
「…きっと別なもんを想像して堪能したがってるよな、あれ。」
「だろうな。」
ルフィから言われていては終しまいである。(苦笑)
◇
やがて列車の先には、目的地の姿がお目見えし、ルフィを始めとする、今度こそ乗客たちのほぼ全員がどよどよと歓声を上げた。水を張ったボウルの真ん中へ、ぷかりと浮かんだブロッコリーみたいな島。周囲を瑞々しい緑に覆われていて、そこのところはパンフレットにあった通りの外観でもある。最初こそ意外と小さく見えたが、それは周囲に比較するものが何にもなかったからであり。見えてから到着までがまた、かなりかかったところからしても、その大きさは察せられ。
「わぁっvv」
島の側壁、濃い緑の枝々の中へ、一気に突っ込んだ瞬間。ついのこととて歓声を上げたルフィだったが、驚いたその割には…大きな眸をキラキラさせており、
“こいつにかかれば、何だって遊園地の乗り物扱いなのだな。”
そんな坊やの一喜一憂こそが全ての破邪様、まだまだ杞憂は要らないなと、こちらさんもまた余裕の構えでおいでであったが。
“いくら東京湾の内とはいえ、
こうまで人々の気配から隔絶されているのでは…。”
陽世界を満たす生気の中、良く言って好奇心の旺盛さと向上心の高さから、悪く言って我欲の強さや貪欲さから、最も強かで逞しいのが“人間”の存在であり。その昔は世界を席巻していたはずの、大地に根付く自然のあれこれでさえ、逆に取り込まんという勢いになっている。霧に包まれた深い森や霊山の佇まい、荒れ狂う大海原の怒号にも似た激しい怒涛、あっと言う間に地形を塗り変える砂漠の砂嵐。吸い込んだ肺腑まで凍らせる氷原の風。ささやかな人知では到底歯が立たなかったはずのそれらが放つ精気さえ、恐れず立ち向かい続けたその結果、今現在はそれらを崩壊へと導く恐れさえ囁かれるほど、圧倒凌駕せんという立場にある。そんな人々の放つ精気の濃さが、善くも悪くも人への陰世界からの干渉への障壁になってもいたものが、
“ここでは一気に薄くなる。”
しかも、周囲に広がるは人為的に拓かれた海。汚染もされてて自然の精気も薄いとあって、
“ナミさんが警戒したのは、このことへか?”
ご陽気に振る舞っていたサンジさん。こっそり細い眉をしかめると、地下道に飛び込んだために暗い鏡となった窓を見やりつつ、その胸中にて溜息を一つ、やはりこっそりとついたのであった。
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*お待たせするにも限度があるぞの、再開でございます。
季節は丸きり反対な夏のお話ですけれど、
どか、皆様の想像力で暖めてお読み下さいませです。(おいおい) |